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コラム

印刷いまむかし現代編③ デジタル化による変革 ~印刷の現在と未来~

印刷の歴史

【印刷いまむかし現代編】では、第二次世界大戦後から現代にかけて、印刷技術の進化について紹介します。
第一回では、凸版印刷・オフセット印刷・シルクスクリーン印刷が効率化されていく様子を紹介しました。
第二回では、1970年代から1980年代にかけて登場した2つの技術「カラースキャナー」と「写植機」について紹介しました。
今回はデジタル印刷の歴史について紹介します。

私たちが「印刷」と聞いて思い浮かべるのは、パソコンやスマホと連動したプリンターではないでしょうか。
液晶画面に映し出された画像が、欲しい時に欲しい分だけ印刷される…。
そんなデジタル印刷はどのように生まれて広まっていったのでしょうか。

WYSIWYG

いきなりわけのわからない文字列で失礼いたします。
これは『What You See Is What You Get』の略で、『見たままを得られる』という意味。
コンピューターのディスプレイに表示されるものと印刷した結果が同じであることを指します。
この『WYSIWYG(ウィジウィグ)』こそがデジタル印刷が目指すものなのです。

令和を生きる私たちにとっては、WYSIWYGはもはや当たり前のものです。
しかし、1980年代ではそうではありませんでした。

印刷には多くの工程があり、それぞれに専門の職人が付いています。
文字組や写真のレタッチ、レイアウトの工程を1つのディスプレイ内で完結させることができれば…。
そうすれば、特別な技術がなくても『見たままを得られる』のです。

DTPとは

今回のコラムはアルファベットが多くなりますので、ご覚悟ください。
DTPとは『Desk Top Pablisshing』の略で『卓上出版』と訳されます。
机の上に置かれたパソコンだけで、印刷に必要なデータを作製できることを指します。

印刷現代史2の舞台となった1960~70年代では、1枚の原稿から版を作るまでに、多くの工程が必要となります。
文章部分を写植機で組んで版下に貼り込んだものをカメラで撮影し、写真部分はカラー毎にカラーフィルターとアミかけフィルムと一緒にカメラで撮影。
撮影後にフィルムをレタッチし、文章部分と写真部分をを一緒にフィルムにしてから版に焼き付けていました。
DTPでは、パソコンで文字入力と文字組み、写真のレタッチやカラー分解をすることが可能になります。
パソコンで資料やチラシを作るのも、広い意味でのDTPです。

DTPの登場

DTPが生まれたのは1985年とされています。
この年にアメリカの企業から発売された、ページレイアウトシステムなどが搭載されたPCが印刷の歴史を大きく変えました。
思うままにページのレイアウトができるソフトや、多彩なフォントが搭載されたこのPCは、印刷業界のスタンダードになりました。
現在でも、この企業が製造・販売しているPCは印刷業界で広く使用されています。
このPCが日本で使われだしたのは1990年代初頭ごろ。
日本語はアルファベットに比べると圧倒的に文字の種類が多く、フォントを準備するのが困難だったようです。
1990年初頭以降に、日本の印刷は急速にDTP化が進んでいきます。

DTPによる変化

DTPにより、原稿が入稿されてから製版までの工程がデジタル化されました。
これにより、出版の迅速化とコストダウンが劇的に進むことになります。
また、カラー分解をコンピューターで行えるようになったため、印刷物がよりカラフルになりました。
1970年代に主流だった電算写植機は、DTPに置き換わっていきます。
また、DTP化が進行することで、ただでさえオフセット印刷に押されていた活版印刷はますます縮小することになりました。

⇒ヤマックスの製版の様子はこちら

CTPの登場

CTPとは『Computer to Plate』の略で、コンピューターで作った印刷用データから、直接版を作る事です。

CTPが誕生する前は、専門職が作った版下データやDTPで作った印刷データを一旦フィルムに出力する必要がありました。
そのフィルムを版材に貼り付けて感光させることで版が出来上がるのです。
CMYKを使う印刷物だと、「フィルムの出力→版材への貼り付け→感光」の作業が4回発生することになります。
でも、せっかくコンピューターで印刷データが出来るようになったのだから、印刷版を作るところまでデジタル化したいですよね…。
そんな願いをかなえるのが、1995年に本格的に実用化されたCTPシステム。
コンピューターに接続された機械から、必要な版が印刷データ通りに作製されます。
フィルムを使わないので、技術的な難易度が下がり、スピードアップにも繋がります。

⇒ヤマックスは版を内製しています

無版印刷の広まり

印刷データをDTPで作成し、CTPで版を作製する…。
印刷がかなりデジタル化してきました。
しかし、版を作る以上、大がかりな印刷機や専門的な技術が必要になります。
それに対し、版が不要な印刷技術として無版印刷が登場します。
1977年にアメリカの企業からレーザープリンターが発売されました。
これは、静電トナー方式や静電デジタル印刷とも呼ばれるもので、静電気を活用した印刷方法です。
コンピューターから送られてくるデータを、印刷機の中でレーザービームによって描きます。
するとそこに静電気が発生するので、紛体インキ(トナー)を引き付けることができます。そのインキを紙に転写することで印刷ができるという仕組みです。
版を作る必要がなく、非常に高速に印刷できるため、とても画期的な発明でした。

1980年代ごろには世界中の各社からインクジェット印刷機が発売されました。
小さなノズルからインキを粒子状にして紙に吹き付ける印刷方式のものです。
インクジェット印刷技術が研究され始めたのは1950年代なのですが、実用化には30年ほどかかりました。
オフィスや家庭のプリンターのほとんどはインクジェット印刷が使われています。

ヤマックスとデジタル印刷

ヤマックス株式会社は、特殊印刷業界においては他社に先駆けて1995年にデジタル印刷用パソコンを導入しました。
お客様から支給される版下がデジタル化されるのに伴い、DTP化が始まったのです。
1996年には静電トナー方式のデジタル印刷機も導入。
ヤマックスのデジタル印刷はここから始まりました。

図1 当時の静電トナー式デジタル印刷機

さらに2008年に凸版印刷においてCTPシステムを導入します。
アナログの製版にも独特の風合いがあるのですが、CTPはやはり高解像度で多色刷りにも対応できます。
2009年にはヤマックス初のインクジェットプリンターを導入します。
従来のシルクスクリーン印刷と組み合わせて、多彩な印刷物を生み出していくことになります。

印刷のこれから

今や、私たちの最も身近にある印刷といえばインクジェット印刷ではないでしょうか。
パソコンやスマートフォンに接続して『WYSIWYG(ウィジウィグ)』な印刷を行ったり、コンビニのプリンターでチケットや書類を発行したり…。
ITの進化によるDTPの確立と、印刷技術の進化による無版印刷の開発によって、印刷が工場から飛び出て私たちの手元に届くようになりました。

グーテンベルグによって活版印刷が1440年に発明されてから500年以上の時を経て、印刷は専門的な技術がなくても誰でもできるものになりました。
では、印刷専門職や大きな印刷工場は必要なくなってしまったのでしょうか。
インクジェット印刷以外の印刷はなくなってしまうのでしょうか。

そんなことはないと思います。

ヤマックスは、耐候性の高いステッカー特別な見た目のエンブレム被着体との一体感を演出する転写マークなどの『特殊印刷』を手掛けています。
これらは印刷のことを知り尽くした専門職が、様々な印刷技術を駆使して出来上がるのです。

特殊印刷で金属感を演出した印刷物

さらにシルクスクリーン印刷とデジタル印刷の良さを組み合わせたハイブリッド印刷など、様々な印刷機を持つ印刷工場ならではの製品も生産しています。

シルクスクリーン印刷とデジタル印刷によって木目と金属感を再現した印刷物

印刷技術だけではありません。
インキや、紙やフィルムなどの被印刷物抜型などのノウハウがあってこそ、高品質な印刷物ができあがります。

凸版印刷やオフセット印刷、シルクスクリーン印刷、そしてデジタル印刷。
印刷技術はこれからもどんどん進化していくでしょう。
ヤマックス株式会社は最新の印刷技術を取り入れながら、さらに印刷ノウハウを蓄積し、新たな印刷表現を生み出し続けます。

参考文献

書籍

  • 青山敦夫, 『印刷レストラン -最新の印刷事情がわかるフルコース-』, ダイヤモンド社, 1996
  • 中原雄太郎, 松根格, 平野武利, 川畑直道, 高岡重蔵, 高岡昌生監修,『『印刷雑誌』とその時代』,印刷学会出版部, 2007
  • 真山明夫, 『トコトンやさしい印刷の本』, 日刊工業新聞社, 2012
  • 山下保, 『四十年のあゆみ』, ヤマックス株式会社, 1989

論文

  • 小田嶋晴子, 「DTPにおけるMacintoshの役割」, 情報の科学と技術, 1993年, 43巻12号, p.1077-1089
  • 小藤治彦, 「プリンキピア ―常識を変えたモノたちの物語― インクジェット開発物語 なぜ,エプソンはインクジェットの商品化に成功したのか」, 成形加工, 2021年, 34巻1号, p.23-24
  • 齋藤将史, 「オフセット印刷技術2012」, 日本画像学会誌, 2012年, 51巻2号,  p.165-176
  • 田沼千秋, 「インクジェット技術とその歴史」, 色材協会誌, 2008年, 81巻12号, p.508-512

画像出典

  • 図1:TQC新聞東京, ヤマックス株式会社, 第42号,1996年, p.8

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